至適睡眠姿勢を科学的に立証するには、診断する人によって、寝返りのスムーズさとぎこちなさの評価が異なるという主観的な判断ではなく、客観的に比較のできる指標を見つける必要があります。

そこで、モーションキャプチャシステムを用いた寝返りの4次元解析を行いました。

ここでは、その結果について臨床的に重要な発見を述べることにします。

モーションキャプチャシステムは人間の体の動きを3次元空間の中でとらえ、可視化し、その動きを3次元+時間軸=4次元座標の中で、速度、加速度、周波数を分析できるのです。

具体的にいうと、寝返りする人間のボディと仮想体軸(コンピュータによる計算上の仮の体軸)を表示し、寝返りのスピードや加速する様子、スムーズかぎこちないかを周波数の波形で、一目瞭然に診断できるという優れモノです。

体を頭から首の頭頸部仮想体軸と、胸から腰・骨盤までの胸腰椎骨盤仮想体軸の2つに分けました。

仰臥位において、至適枕では頭頸部仮想体軸は胸腰椎骨盤仮想体軸に対し、軽く前方に倒れているのがわかります。

頭頸部仮想体軸をレントゲン写真上に描き出し臥位の基準線であるC7水平線とのなす角(頭頸部仮想体軸角)を求めると、臥位では仰臥位頚椎傾斜角に非常に近似した値を示しました。

つまり、寝返りの時の頭頸部の回転中心は、リアルな人間の頚椎そのものだといえそうです。

一方の胸腰椎骨盤仮想体軸も、臥位ではC7水平線とのなす角度で有意に減少しました。つまり、リアルな胸椎・腰椎・骨盤のアライメントは、寝ている臥床面に平行になることで、寝返りという回転運動を効率よく行えるようです。

立位から至適枕を使用した臥位に姿勢が変化すると、胸腰椎骨盤仮想体軸とC7水平線が近似します。

これらをまとめると、頭頸部仮想体軸および胸腰椎骨盤仮想体軸が、リアルな全脊椎(頚椎・胸椎・腰椎)と骨盤アライメントに近似したことから、至適臥位姿勢の調節において次のことが結論づけられます。

仰臥位頚椎傾斜角を約18.1度とし、胸・腰椎・骨盤アライメントが臥床面に平行となるように、枕と寝台で調節することが重要だということです。

このことが枕と肩こりの関係にも当てはまってくるのです。

 

姿勢には静的姿勢と動的姿勢の2つがあります。

静的姿勢とは、重力環境下でエネルギー効率よく、バランスを維持した静止状態の姿勢です。つまり、支持基底面上に重心を安定した状態に維持し続けることです。

支持基底面とは、接地面に接触している身体部位のことで、立位では足の裏、仰臥位では後頭部・背中・腿やふくらはぎの後面のことです。

一方の動的姿勢は、重力環境下で体位を変化させていくための姿勢戦略です。つまり、力学的平衡を保ちながら次の姿勢に向かって重心を移動させ、その基底面を変化させます。あえて一旦不安定な状態になり、再び安定を獲得する動作です。

たとえば歩行では、立位の状態から片足を振り出して不安定な状態になり、基底面である反対の足でバランスを取りながら、振り出した足を着地して安定した状態になり、これを繰り返します。

寝返りもまったく同じです。仰臥位から左に寝返りをする場合、右手と右足を上げて体の右側面を持ち上げて一旦不安定な状態になってから、左に寝返りを打ち、体の左側面を基底面にして安定状態になります。

つまり、眠っていても正確に姿勢戦略を遂行しているのです。余談ですが、ベッドから落ちるとか、寝返りで壁に手足をぶつけるなどというのは、この姿勢戦略の失敗です。ベッドが狭いとか、壁が近いとかの言い訳はできません。

10年ほど前、私は至適睡眠姿勢を静的姿勢だけから導こうと悪戦苦闘していました。全身の寝姿勢のレントゲンを撮影したり、MRIで神経の状態をいくら観察しても、「これが絶対的な至適睡眠姿勢だ」というものにたどり着けませんでした。なぜなら、静的睡眠姿勢という狭い範囲の中だけで模索していたせいでしょう。

私がこのことに気づいたのは、睡眠時の動的姿勢、つまり寝返りについての様子をよくよく観察したことがヒントになりました。寝返りがスムーズにできる静的姿勢(仰臥位と側臥位)こそ、至適睡眠姿勢ではないかと考えついたのです。

 

SSS法を用いて枕の高さを計測した3万252人のビッグデータを見てみると、身長、体重、枕の高さの相関を示す3次元グラフで見ることができるようになっています。

身長と体重が増加するほど、枕の高さも増すのがわかります。相関係数は0.79という非常に高い値を示しています。

しかし、少数派ではあるものの、身長と体重に比較して枕の高さがとても低い人、とても高い人がいます。その原因は、枕の高さに影響を与える他のパラメータが存在するからです。たとえば、円背(猫背)、肩幅、顔の幅、身体の柔軟性、身体の左右差、特殊な疾患などです。

私は、多数派の人に適切な枕調節が必要なことと同じく、少数派の人にも唯一無二ともいえる、その人にぴったりの枕調節を行いたいと考えます。

SSS法で枕の高さを決定すると首の傾きが変わることがレントゲン写真で確認できます。私の至適な枕の高さ50mmでは、側臥位と仰臥位で類椎アライメントが良好です。

仰臥位頚椎傾斜角には、頚の骨格のアライメント、つまり並びを反映すると同時に、そのすぐ後ろにある脊髄という神経の束がどんな走行になるかを決定づける重要な役割があります。

この脊髄や、そこから枝として出る頚神経こそが、首の痛みや肩こり、頭痛、手のしびれの原因となります。

頚椎椎間板ヘルニア。頸部脊柱管狭窄症、姿勢異常(円背)という3つの疾患の頚椎のMRI画像をみてみると、枕がない状態では、前方、後方、または前後両方から、脊髄を挟む状態(ピンサーメカニズム=カニのはさみで挟まれる機構)になります。

しかし、至適枕にすると脊髄の走行状態がよくなり、圧迫は軽快、または消失し楽になるのがわかります。この症例が特別な例ではないことを証明するために、私は頚椎疾患のMRI画像を調べました。

その結果、それぞれの疾患の最も脊髄を圧迫している部位において、くも膜下腔という脊髄のまわりのゆとり空間が、枕調節後は8.71mmから9.40mmに有意に拡大しているのが明らかになりました。

 

2003年、東邦大学整形外科教授の勝呂徹先生が、仰臥位における頚椎の傾きを「仰臥位頚椎傾斜角」と名づけてくださいました。

頸部がリラックスして楽な姿勢であるのはもちろんのこと、頚椎の前にある空気の通り道である気道の通りもよくなる大切な角度です。

仰臥位頚椎傾斜は、大後頭孔という脊髄が頭蓋骨内に入る大切な穴の前縁の中点と第7頚椎後面を結んだ線と、臥位姿勢の基準であるC7水平線とのなす角です。定義は難しいのですが、とても大切な角度です。

頚椎のMRI画像で、至適枕における仰臥位頚椎傾斜角を計測すると、大変興味深い結果が出ました。全体の平均角度は、18.1度です。これを男女別にしても、男性18.1度、女性18.1度とまったく同じになりました。

年代別に10代、20代、30代……80代と見ても、17.1~18.9度と大きな差はなく、変形性頚椎症、頚椎椎間板変性症、頚椎椎間板ヘルニアなどの疾患別でも、17.9度~19.2度と有意な差はありません。

つまり、枕の高さを個人個人に調節すると、男女年齢、疾患等を問わず、仰臥位類椎傾斜角は一定であり、その角度は18.1度だとわかりました。
この仰臥位類椎傾斜角を用いて、私は枕の調節方法を確立しました。側臥位と仰臥位に適合する枕の高さを決定する方法です。その命名は「背骨がぐっすり眠れるように枕を調節する」という意味です。

側臥位では頭部・体幹の中心線が臥床面に平行になるように調節し、仰臥位では仰臥位類椎傾斜角が15度前後になるように調節します。これは頚椎にある頚神経の出口が一番大きく開く角度で、そこ通る神経がゆるめられ、血液の循環がよくなり、楽に眠れます(ただし、疾患や姿勢に異常がある方では15度にならないこともあり、あくまで目安です)。

その後、スムーズな寝返りができるか確認します。

もし、ぎこちない寝返りだったら、側臥位と仰臥位をやり直してから、もう一度寝返りを確認します。これを繰り返しているうちに、必ず最もスムーズな寝返りができる高さに到達します。自分の枕で試してみてください。